移動の本質とスプリットステップ

堅苦しい題名ですが、旧サイトで最もみなさんに高く評価していただいた「レシーブの最初の一歩」の続編ですので、気合を入れてできるだけわかりやすく説明してみたいと考えています。画像も出来るだけ使用していますので少しばかりお付き合いください。

加速度・・・走り出すことと止まることは同じ

早速ですが、走り出すことと止まることは、心理的には正反対のことですが、物理的には大きな共通点があります。それは加速度というものを利用する点です。走り出すときに加速するのは誰にでも理解できるでしょう。一方止まるときにも加速するというのはおわかりでしょうか?これは、止まる=減速するとは、マイナスの加速を行うということです。言い換えれば、後ろに加速するわけです。


では、人間が加速(減速)するためにはどうするのか。それは、簡単に言うと「身体を傾ける」という方法を用います。上の動画の動きに奇妙な点があることに気づかれたでしょうか?着地の時がおかしいですね。このように着地してしまっては逆方向に飛ぶことはできません。物理的にありえない動きです。

正しくは、下の動画のように動くはずです。右に飛んだ時の着地は左に傾きます。それによって減速するのです。そして減速し終わった後も左に傾いたままです。そのおかげで左に加速し続けることができ、左に飛び上がることが可能になります。


「傾ける」といえば、右のバイクレースを思い浮かべる方もいるでしょう。これも傾いている方向に加速しているのでしょうか。

結論的には、これも傾いている方向に加速しています。コーナーを曲がるとき、部分部分では円運動を行っていると考えられますが、物理的には、等速円運動とは向心力という名の力による加速運動なのです。円の中心に向かってつねに加速し続けるからこそ、曲がっていられるのです。こうやって加速し続けなければ、中学校理科で習う「等速直線運動」をするはずですよね。

身体を傾けるためにはどうするのか

以上のように「加速するためにはその方向に身体を傾ける必要がある」といえますが、ではそもそも身体を傾けるために人間は何をしているのでしょうか。

この点、左右のどちらかに傾くのは比較的話が簡単です。急な動作ならたとえば右足を上げれば、接地点が左足、重心は身体の真ん中すなわち左足よりかなり右側にあるのですでに傾きが得られます。右足を上げないゆっくりな動作だと、右足に体重をかけていっているように感じるときもありますが、あくまでそれは直前に左足に右足より大きい力を無意識にかけた結果です。

では前後方向に傾くにはどうするのか。たとえば信号待ちなどで立っている人が、信号が青になって歩き始める瞬間のことを考えて見ましょう。立って待っているとき、人の重心は揺れ動いていますが、常に右図の足の上または灰色の部分の範囲内に収まっています。そして歩き出すとき、右足から踏み出すなら、踏み出す前に右足で地面を押すことで重心を一度左足付近の上方に持っていき、同時に左かかとで身体を支える(地面を押す)ことにより前方移動も始めます。このかかとで支えるという部分が大切です。ゆったりと動き出すときはあまりこのかかとで押す力は感じられないでしょうけど、急いでいるときをイメージして動き出せばかかとで押していることが感じられると思います。

物理の話ばかりでも面白くないので、実験してみましょう。片足立ちで試してみればよく分かると思います。信号の前で右足で立って待っている場面をイメージしてください。バランスを取るために、右に倒れそうになったら小指側、左に倒れそうになったら親指側で地面を自然と押していることがわかるはずです。そしていざ前に進むとき、強くかかとで地面をおしているはずです。

左の図は右で紹介している放送大学のテキストからとったもので、歩き始めるときの動作を物理的に解説したものです。下向きの矢印はおなかのあたりに起点がありますね。これが重心です。見て分かるとおり、重心が接地点より前にあります。接地点から重心に向かって直線をイメージすれば、その直線は傾いています。この傾きが、加速するためにどうしても必要な条件なのです。

ちなみに図は矢印(ベクトル)の大きさが正しくありません。下向きの矢印と上向きの矢印の大きさが等しい点は正しいのですが、上向きの矢印と前向きの矢印のベクトルを合成すると重心を通っていない点が間違っています。このままでは図の人物は後方宙返りのように回転し、後ろに倒れてしまいます。

話を元に戻して、身体が傾いた状態をつくるためには、地面を押す足の裏の部分を無意識に変化させるということを人はやっているといえます。前に歩き始めるためにはかかとで押し(身体を支え)、後ろに進み始めるためにはつま先で地面を押し(身体を支え)、左に動き始めるためには右足で地面を押すわけです。こういう変化をさせないのに重心が勝手に動き始めることは絶対にありえませんので、決して騙されないで下さいね。

足の裏の無意識的な操作は誰でも行っていますが、意識的に傾いた状態をつくるのが旧サイトで説明した「接地点移動法(「レシーブの最初の一歩」参照)」です。この接地点移動法は、あの記事を書いた時点ではたんなる提案に過ぎませんでした。ところがようやくそれに近い動画を見つけたのでご紹介いたします。中垣内祐一のファンダメンタルバレーボールのDVDからの映像です。

レシーブの動き出しの動画

遅い(delay=500)
普通(delay=300)
早い(delay=30)


堺ブレイザーズのリベロ、大久保選手がモデルで、前方へのフライングレシーブの模範演技をしています。模範演技なので試合中の動きとは異なる可能性はありますが、身体の傾き(接地点と重心を結ぶ線の傾き)について理解を深めるためには最高の材料です。大久保選手が何をしているのか、前後方向の話と左右方向の話に分けて分析してみましょう。

まず前後方向の話です。大久保選手がまずなにをしているか。私が気づいたのは「つま先を上げている」ことです。delay=30の「早い」の早さで見るとわかりやすいと思います。ではなぜつま先を上げているのか。これはまさに「かかとで身体を支える状況をつくりだすため」だと言えると思います。最初に重心が両つま先を結んだ線上にあれば、かかとで支えることにより接地点と重心を結んだ線が前に傾いた状態が作り出せるのです。

大久保選手は次に左足を後方に少し移動させています。これはまさに「接地点移動法」そのものであり、初めて見たとき、「おー本当にやっている!」と私は少し興奮しました(笑)

次に横方向の話です。つま先を上げるのとほぼ同時に、少しだけ右に移動しています。もちろん少しだけ左足に力を加えて行っている動作のはずです。この動きの目的は、直後に左足を浮かせたときにバランスを崩しにくくするためです。

左足を浮かせたとき、接地している右足から見て重心は左方向で若干前方にあると思います。ですから、重心の加速する方向は斜め左前になります。

左足が再び接地した瞬間から、前方への急激な加速が始まります。左右方向の移動はここから先は考慮しなくていいでしょう。

<2006年4月3日追記> アテネオリンピック男子決勝から、実戦での接地点移動レシーブを編集できたのでご覧下さい。
ベルミレオの接地点移動レシーブ

これはブロックにひっかかったボールをフライングレシーブしているシーンです。予測が困難なので次のページで述べるスプリットステップは効果的に行えていません。若干棒立ちに近い状況からとっさに両足を後ろに引き、身体が前に傾いた状況を作り出し、急激に加速してフライングしています。

理屈ではわかりますが、とっさにこのように反応するのはなかなか難しいことですね。そこで次のページでは、接地点移動を無意識に行いやすくする方法を考えてみます。

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一見すると本書は、書店でよく見かける、大昔の常識をそのまま載せた入門書の仲間ようにも見えます。しかし、内容の誠実さは群を抜いて素晴らしいものがあります。

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