フォーム=自然な動きの積み重ね
スパイクフォームを体幹の動きも含めて分解して考えましたが、各部分の動きは自然な動きの積み重ねと言えます。手を頭より高く上げて運動をするオーバーヘッドスポーツは四つ足動物には不可能で、その原点は「サルの枝渡り(ブラキエーション)」にあると言われています。
テナガザルが枝を伝わる様子ですが、腕の引き上げはスパイクスイングの【原則1】腕は体の前で引き上げるに一致しています。サルの動きだけでなく、前からの引き上げは日常生活や他のスポーツの中に自然な動きとして備わっています。
このような動きの一例として、弓を引く動作を見てみましょう。
上の写真はアーチェリー(洋弓)における腕の引き上げ方です。両胸を的に向けて腕を引き上げる様子は正に「ボウ(弓)・アンド・アロウ(矢)」の引き上げ方です。
左の写真は弓道(和弓)における腕の引き上げ方です。アーチェリーの場合と異なり、両胸は的の方向に直角に向けて腕を引き上げています。この動きはバレーボールではサーキュラー・アームスイングに相当する引き上げ方となっています。
欧米人がスイングフォームに「ボウ・アンド・アロウ」と名前をつけているのは彼らがアーチェリーの引き上げを思い起こすからかもしれません。しかし、和弓では「ボウ・アンド・アロウ」とは呼べずむしろ「サーキュラー」に近いフォームとなっています。それでも、両者ともに【原則1】腕は体の前で引き上げるは成り立っていることはわかると思います。ここでも体の向きの違いがフォームを変えていることがわかると思います。
(尚、ここでの弓道の構えは「正面の構え」と呼ばれるものです。日本の弓道でも流派により「斜面の構え」と呼ばれる洋弓に非常に近い構えもあります。しかし、【原則1】が成り立つことには変わりありません。また弓では当然に【原則2】も成り立っています。)
初心者のフォームから
次の連続写真はバレーボールにほとんど触れたことのない中学生の女子生徒が体育のバレーボールの授業でスパイクを打った時の写真を集めたものです。
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(写真は山梨大学教育人間科学部 遠藤俊郎教授のご好意によります。) |
体幹の動きと腕の動きに注目して見て下さい。
一番目と二番目の生徒は両胸を真っ直ぐネットに向って入り体幹の回旋をしないで打っています。腕は顔の前を振り上げられていて「ストレート・アームスイング」の動きです。
三番目の生徒は踏み切り前より胸がこちらを向いています。腕は頭の後ろを通って振り上げられています。この腕の振り上げは「サーキュラー・アームスイング」を思わせます。
四番目と五番目の生徒は踏み切りは真っ直ぐネットに向かっているものの、踏み切り後に体幹の回旋がはじまり、「ひねり動作」があります。これは「ボウ・アンド・アロウ・アームスイング」の動きです。
どの生徒も当然、完成されたフォームとなってはいませんが、今まで説明して来た「体幹の動き」、「踏み切り時の体の向き」、「スイングの腕の形」といったものの関連性をすでに見る事が出来ます。スパイク練習を重ねていけば、それぞれのフォームに発展していきそうに思えます。初心者の動きの中にフォームの原型がある事より人がいくつかの自然な動きを使って、ボールを打っていることがわかります。
スイングは体幹の動きを含む動作です。そして、体幹の動きの上に自然な腕の引き上げとバックスイングを組み入れたものがそれぞれのスイングだと言えます。
「サーキュラースイングを習得したい」と考えるならばその動きのベースとなっている体幹の「ひねり」や踏み切り時の体の向きについて理解しなければなりません。今まで「反り」動作を中心に考えて来た人にとっては腕のスイングだけを真似て動かしてみようとしても「不自然さ」や「違和感」を感じるだけで、到底しっかりと打てるスイングにはならないと思います。スイング動作の鍵は腕にではなく、体幹にあると言えます。
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