『魂』を揺さぶる読み物

卒業式で・・・ byゴン太さん 2006-2-10

 私のチームでは毎年卒業記念文集を作っています。

 3年前も、いつものように卒業生に原稿用紙をわたしました。叱咤激怒することしか指導する術を知らない私は、その子達にもずいぶん無理なこともさせてきました。でもあんなに頑張ったのに、最後は負けた。あんなに頑張ったのにレギュラーになれなかった。そんな思いから、バレーのことを忘れたくなってしまっている子もいるんじゃないか・・・。思い出したくない思い出になってしまってる子もいるんじゃないか・・・。そんな不安が心のどこかにあって消えていませんでした。あんなに頑張ってきたと思ったことも、実は私一人が自己満足しているだけで、肝心の子どもたちの心の中では、それほど大きな輝きを放つ出来事ではなかったのではないか。そんな思いが、私の心を曇らせていました。

 書き上げられ私のもとに届けられた原稿を、職員室の自分の席で読みながら私は人目もはばからず泣きました。止まらぬ涙を拭うこともせず、一人一人の作文を読みました。どれもこれも本当に美しく輝いていました。いろんな場面がありありと思い出されました。

「他の誰にもわからないかも知れないけれど、確かにこの子達は、その青春を賭けて、熱く、ひたむきに、真摯に打ち込んだ。そして、その姿は本当に美しく、そしてカッコ良く輝いていた。」そう思うと、この子達とその時間と思いを共有できたことを、とても嬉しく、この上なく誇りに思ったのでした。同時に、バレーボールを指導していくことにも、自信がもてたのでした。

 そんな卒業式を迎えても、どうしても心の晴れぬままになっていることがありました。Kのことです。ちょうどその一年前、前年の卒業式が終わって四・五日が過ぎた頃のことです。Kのお母さんから私の自宅に電話があり、三学期いっぱいで転校すると告げられました。「はあ、そうですか・・・。」と、答えたものの、頭の中は真っ白になりました。これまでのお礼を述べてくれるお母さんの言葉も、うわの空で頭に入りませんでした。

 更にそれをさかのぼること半年前、夏の大会で負けてしまったバレー部は町営グラウンドにいました。決勝戦まで勝ち残ったサッカー部の応援をするためでした。一進一退の攻防に、他のバレー部員達が得意の応援歌を歌い、歓声を上げる横で、Kは一人ぽつんと離れていました。その頃、Kは転校してきて一年足らず。みんなとなじめないまま日が過ぎていました。そして「帰りたい。」と私に言いました。しばらくしてから副顧問のM先生に呼ばれ、涙ながらにお叱りを受けました。「先生、強くなるのもいいけれど、あれではあかん。あの子があんまりにも可哀想や。」もちろん、私とてそれでいいとは毛頭思っていませんでした。目を赤くしているKと話しました。「最後には、きっとバレーをやって良かったと言わせてみせる。」そうKにも自分にも誓って、この一年間がスタートしたのでした。

 Kはレフト対角の裏エースのポジションに着きました。バレーを始めて一年にも満たない彼女には、荷が重すぎるかも知れないポジションで、彼女はよく叱られました。怒られてばかりでパニックになることも多々ありました。だけど、とにかく自信を持ってバレーができるようになることが、彼女にとって何より必要なことだと感じていた私は、とことん彼女を叱咤激怒することで接していきました。もって生まれた真面目さで彼女は着実に成長していきました。二月の招待試合のあと、いろいろなことがあって、「努力は喜びを生む」の言葉に感応して、チームは更に一丸となって燃えて行こうとしていた、そんな矢先のあまりにも悲しい電話でした。

 「努力は喜びを生む」。だけど、こんなに努力してきた彼女が、喜びを味あわぬまま転校していってしまう。もう既にKは独りぼっちではなくなっていました。Kの頑張りと努力がチームの誰からも認められ、すっかり仲間になっていました。ある意味では精神的支柱にさえなっていたかもしれませんでした。あとは、立派にエースとして大活躍し、みんなと一緒に夢をつかんだ歓喜の涙を流すことだけでした。それなのに・・・。これまでバレーボールをしてきて、あんなに悲しい出来事はこれまでにはありませんでした。三月末の彼女にとって最後の遠征、最後のセット、当時県下最強を誇ったU中学校のエースからブロックを決め、今までには打ったことのないようなスパイクを決めてKの自分達とのバレーは終わりました。

 Kは自分の最後の舞台に花を咲かそうとしたのだろうけど、そしてそれは見事に輝いていたのだけれど、今思っても、やっぱり最後までみんなと一緒にバレーをさせてやりたかった。どうすることも出来なかったこととはいえ、この年、唯一心残りになっている出来事でした。

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