ジルソン選手のスパイクフォーム 〜 初動負荷理論を参考に

連続写真

 ジルソン選手のクロスコースへのライトバック連続写真です。『野球トレーニング革命』(小山 裕史 著)の記述を参考に私が解説をしました。やや専門的な用語を用いていますがそんなに難しくはないはずです。

≪用語説明≫

内旋・外旋(ないせん・がいせん)

 肩に対して上腕(=二の腕)をどうひねるかという語です。腕相撲では腕を内旋させます。外旋はその逆の動きです。

回内・回外(かいない・かいがい)

 前腕(=肘から先)を肘でどうひねるかという語です。垂らした腕を肘で直角に曲げた時、手の平を下に向ける動きが回内、上に向ける動きが回外です。
 肘の向きに注目すると肩でのひねり具合(内旋or外旋)が、手の平の向きに注目すると肘でのひねり具合(回内or回外)がわかりやすいです。

では始めます!

スパイクフォーム

1. ジャンプ上昇中。腕が上がっているのはジャンプで腕の振り上げる勢いをそのまま利用しています。これにより上半身はリラックスしたままスパイク体勢を作れるのです。


スパイクフォーム

2. この体勢からまっすぐ5.の体勢をつくらず、肘を後ろにまわしつつ手を下げているのがポイントです。正確にはいったん腕を内旋、前腕を回内させています。これを小山氏は「Dodge movement(かわし動作)」と呼びます。しかしクイック時や滞空時間の短い女子では省略したほうが良いかもしれません(今後の研究課題)。


スパイクフォーム

3. 見るからにリラックスしていますね。


スパイクフォーム

4. ここから5.にかけて手首を折り曲げ(=掌屈)ていますが、これは必ずしも必要ないようです。

 ここからの左腕の急激な引き付けも見逃せません。右腕に先行して動き、右胸から右腕にかけてのしなりをつくるきっかけの一つです。きっかけにはそれ以外に身体の大部分のひねりも使っているはずです。


スパイクフォーム

5. 次第に腕を外旋させて元に戻し、トップポジションを作ろうとしています。

 左腕はここまで内旋してきています。写真では見えませんが、左手は強烈に回内して手の平がこちらを向いています。そしてここから外旋、回外しつつ肘から軽く曲げていきます。


スパイクフォーム

6. トップポジション直後です(5.と6.のあいだにトップポジションはあります)。トップポジションは回内状態から回外へ移行する境目の体勢だと考えて良いでしょう。そしてトップポジションまでは右肩や右腕を出来るだけリラックスさせる必要があります。それがしなりやその後のスムーズなスイングの基礎となります。


スパイクフォーム

7. 腕の外旋具合に注目!非常に柔らかい肩をしています。胸の筋肉もしっかり伸ばされています。それから、右手の平はちょうど真上を向いています。腕は非常に外旋していますが、手は回外状態にしてはいけないのです。回外(この写真で言えば手の平を頭や下に向ける事)させると上腕二頭筋(力こぶの筋肉)が働きやすくなり、この後肘を伸ばす動きを妨げてしまうのです。(インナーマッスルを強調する理論では回外させるようですが、経験上回外しない方が良いです。少なくとも回外を強調するのは明らかに間違いです。)


スパイクフォーム

8. 腕が非常にしなっています。ここからこのしなりを利用して腕の内旋&肘の伸展を行います。この二つの力のどちらも軽視できません。
肩甲骨周辺の筋肉や腕、胸の筋肉が柔軟でなければこうはいきません。

 6.で始まった緩やかな回外動作はこの辺で終了。この時点でも回外状態とまでは行っていません。以後、回内・回外に関してはミートまでほぼ固定します。


スパイクフォーム

9. ここからミート直後にかけては単位時間あたりのコマ数を増やしています。それだけ動きが速いのです。


スパイクフォーム

10. 次第に腕を内旋していることを確認してください。


スパイクフォーム

11. このあたりでは、上腕三頭筋(力こぶの裏側の筋肉)にそれほど力をこめる必要はありません。小山氏の『初動負荷理論』からもこれは理想的な筋肉の使い方です。これはミート時に肘を前に向けるフォームと全く違うところです。


スパイクフォーム

12. 左肩をさげるなと良く聞きますが、私はそうは思いません。ジルソン選手を見ても下がっていますよね。バレーでは野球の投球と違い下半身の水平面回転(垂直軸回転―(例)コマ)を利用しづらいのでこのほうが合理的でしょう。ただ、「常に下げろ」と言っているわけではありません。念のため。


スパイクフォーム

13. ミートの瞬間です。12.13.14.と見ていくと、ミートの瞬間に肘が横を向いていることがわかります。これは重要です。なお、右手−右肘−右肩−股関節はだいたい一直線になります(ライン形成)。

*「肘が横を向く」の説明。例えば「気を付けッ!」の姿勢では肘は後ろを向き、「前へならえッ!」の姿勢では肘は下を向くという感じで表現しています。そして肘を伸ばしても腕のひねり具合によって肘の向きは変えられるのです。

参考:「スナップ」とボールヒットについて3 byオリビアさん


スパイクフォーム

14. 腕は8.などに比べかなり内旋された後である事がわかると思います。そして少しだけ上腕二頭筋(力こぶの筋肉)が働き肘も少し曲がります(この筋肉が働き始めるのはミート直前から。伸張性収縮と言います)。この上腕二頭筋が働くというのは重要です。なぜならこの筋肉が働けば自然と握力が働きやすくなるからです。結果として意図するまでもなくボールにドライブが掛かるのです。上手い人は手首を返してドライブを掛けようなどとは意識しません。

参考:前掲「スナップ」とボールヒットについて byオリビアさん


スパイクフォーム

15. 左腕の使い方も参考にして下さい。前腕を回外させつつ胸に引き付けています。指も卵を持つ感じで曲げます。


スパイクフォーム

16. 非常に見づらくはありますが、手首を決して返していないことを確認してください。ミートが適切なら握力というか指の力を瞬間的に加えるだけ(勝手に加わるんだけど)でドライブが充分かかるのです。


スパイクフォーム

17. たぶんこの瞬間が最も腕を内旋させた状態です。フォロースルーでの内旋をあまりに強調する必要はなく、この程度で止めておくのが良いでしょう。肩に負担を考えると、この時点で肘を曲げすぎるのは良くありません。(肘を曲げると上腕長軸回りの前腕の慣性モーメントが著しく増大し、棘下筋が過度に酷使されて肩痛の原因にあると思われます。)また、回内の具合も参考になるでしょう。完全に外を向いています。ライトからクロスへ打ってもこうなるのです。


スパイクフォーム

18. 以上、スパイクフォームは三次元的にひねり(身体、肩、腕など)も考慮に入れて理解する必要があります。ぜひこのページを参考に、素晴らしいフォームを手に入れて下さい。もちろん前提として肩周辺の柔軟性や強さが必要ですので、その強化法は前述の『野球トレーニング革命』か、同じ著者の『新トレーニング革命』をぜひ読んで頂きたいです。

 なお、moomooさんの『スパイク』も合わせてお読みください。ほぼここで書いた理論と同じですし、助走などにも触れられています。


(黒鷲旗決勝より 2000年6月編集)

肖像権など

 私は肖像権などについてよくわかりませんので、もしかしたら少し問題があるかもしれません。しかし、ここはぜひ笑って見逃していただきたく存じます。ジルソン選手のフォームは非常に貴重な資料ですので、どうか宜しくお願い致します。

(2000年6月)