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「スナップ」に対する疑問 

  誰でも知っている言葉でも意味をあらためて聞かれると説明出来ない言葉があります。私にとってはスパイクやサーブのボールヒットの時に使われる「スナップ」という言葉もその一つ。英語で書けば“snap”。この言葉はもちろんバレーボールに限って使われるわけではなく、日常生活や他のスポーツでもよく使われています。よく目にする指導の表現に「スパイクボールは手首のスナップを利かせて打たなければならない」といったものがあります。

  この時の「スナップ」という言葉でイメージするのは左の写真のような手首の「背屈」と「掌屈」の連続動作です。ボールを打つ瞬間に手首を素早く「背屈−掌屈」して打つことが「スナップを利かせる」打ち方のイメージです。これは私だけのイメージであって、「本当にこれを『スナップ』と言っていいのか?」という疑問がいつもあります。

掌屈
背屈

  この“snap”はアメリカではどう考えられているのか? インターネットで検索したアメリカのバレーボールサイトからの文章を引用してみます。ボールヒットについて説明した文章です。

“Hit the ball with the heel and palm of your hand, and quickly whip your fingers through the top of the ball by snapping your wrist. This wrist snap imparts top-spin to the ball, which causes it to dive down into the opponents' court.”

「手根部と手のひらでボールを叩きなさい。そして手首をスナップさせてボールの真上を指で素早く鞭打つように叩きなさい。この手首のスナップはボールにトップスピン(ドライブ回転)を与える。トップスピンによりボールは反対側のコートに勢いよく落ちていくことになる。」

とあります。しかし、“snap”そのものは「手首をこのように使う」とはハッキリと書かれていません。もともと“snap”は「パチンと音を出す」ことを意味しており、転じて「パチン」「ピシャリ」とした動きを言い表しています。「(木の枝などを)ポキンと折る」という意味もあるので、手を枝に見立てて「手首をポキンと折り曲げる」と考えるのかもしれません。「スナップを利かす」という時の「利かす」という言い回しは日本語の独特の表現です。

スナップのないスパイク

  以前、テレビでVリーグ観戦をしている時にVTR画像を見て、一瞬、わが目を疑った事があります。

「手首をスナップしていない!」

  かつてサントリーにいた外国人選手のボールヒットの手が大写しでスロー再生されていたのですが、その選手はフォロースローの時でも手首を掌屈していませんでした。いや、掌屈しないどころか、手関節は背屈したままのようにさえ見えました。「スパイクはスナップを利かせて打つ」という言葉を当然の事として信じていた私には非常にショックな出来事で思わず何度もVTRを見直してしまいました。

  プレーの再現図。向かって左が普通のボールヒットで右がこの選手のヒットです。こんな感じで手首と指を背屈させてボールに手のひらをヒットさせているように見えました。武道の突きワザではあるまいし、このような手の格好ではまともなスパイクは打てそうにもないと思いましたが、実際は強烈なスパイクを次々に決めているのを見て、「ボールヒットとスナップ」にはもっと本質的に深い問題があるのではないかと考えはじめました。


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