バレーボールのブロック戦術・システム

(1)ブロックシステム PART1・・・・・私独自の用語「エセリードブロック」の解説が含まれています。
(2)ゾーンブロックのマークの受け渡し方・・・・・コミットブロックの場合相手をノー枚(=ノーブロック)にしてしまうことがあります。その予防策について。
(3)ブロックシステム PART2・・・・・試合終盤に特に有効な戦術です。ほかにデディケイトブロックの解説もあります。
(4)ブロックの正面とは?・・・・・「真ん中」「正面」「正対」という三つの語を使い分ける事を提案します。

 

(1)ブロックシステム PART1


 早速ですが、チームブロックシステムを分類する上では三つの視点があります。

  1. リード(=シーアンドレスポンス)かコミットか
  2. ゾーンかマンツーマンか
  3. バンチかスプレッドか

 以上の三つを説明します。

 1についてですが、相手の速攻にどう対処するかという分類です。速攻にトスが上がると最初からヤマを張って先に飛ぶのがコミットブロック、相手が速攻にトスを上げたのを見て反応して飛ぶのがリードブロックです。

 一般的にはこの二つに分類するのですが、私はここで「エセリードブロック」というシステムを分類しておきます。エセリードブロックとは相手セッターの様子からトスを予想し、ある時は速攻に二枚コミットで飛んだり、ある時は裏に三枚飛んだりするブロックです。読みが当たりまくるとあたかもリードブロックをやっているかのように見えるのでこう名付けます。

 私の言う組織的なコミットブロックは、ほぼ常に速攻に一枚飛ぶと最初からきめている点でエセリードブロックとは違います。また、リードブロックはセッターに振られる危険性を極力排除しようというシステムであるのに対し、エセリードブロックはセッターに振られることも多いと言う点で違いが出てきます。


 2については、マークした相手の動きを追いかけ、時にはブロッカー同士で場所をチェンジするシステムがマンツーマンブロックで、ほとんどのチームで行われているマークを受け渡すシステムがゾーンブロックです。

 ゾーンブロックでコミットブロックをする場合、相手スパイカーの二人が交差するコンビに対してマークを声で受け渡す必要があるのですが、それはなかなか難しく、結局エセリードブロックになっている事が多いです(注1)。これは下記「(2)ゾーンブロックのマークの受け渡し方」も参照して下さい。


 3については、セッターがトスを上げる直前にサイドブロッカーがどの位置にいるかという点に注目します。センター付近に集まるシステムがバンチ、アンテナ付近まで散らばるシステムがスプレッドと呼ばれます。純粋なマンツーマンコミットブロックの時はあまり関係ありません。ゾーンリードブロックでは速攻に二枚以上飛びたいので(何故ならそれを可能にするのがリードブロックの最大の長所だからです)バンチシステムをとりたいところです。またエセリードブロックでもバンチ気味な事が多いですよね。なお、中間の形態をデディケイトブロックという言葉で表すこともあるようです。


 基本的には以上三つのを組み合わせて分類するのですが、トップレベルのチームを除けば、チームとして統一はせずに個人の判断で状況により使い分けている場合が多いようです(注2)。例えば、センターブロッカーだけリードブロックをするチームや、レフトブロッカーはライト平行を気にせずバンチのポジションにいるがライトブロッカーはスプレッドの位置に構えている場合もあります(Cクイック時など)。

 ついでにナショナルチームレベルの話をしますと、現在のイタリアはバンチリード(ゾーン)ブロックで世界一の座を守っているということです(チョット古い情報ですが)。非常に強力なシステムであるバンチリードブロックをさせないために現代バレーでは平行が非常に速くなっています。しかしイタリアはその速い平行にバンチで対応できる様です。詳しい事は月刊バレーボールの平成真技塾(?)に載っているので、気になる方は図書館でバックナンバーをお読みください。


(注1)  セッターは、このように「不本意エセリードブロック」をしてくるチームにカモにされないようになる事が最初の目標だと言えるでしょう。そしてもっと上手くなったら逆にカモってしまいたいですね。難しいんですが。駆け引きやフェイクが必要です。

(注2)  そのため、スカウティングをする際には相手の一人一人の癖をチェックすべきであり、中途半端なスカウティングは相手によっては逆効果ですらあります。個人のブロック能力に頼ったチームは、この点で意外と厄介な相手なのです。



(2)ゾーンブロックのマークの受け渡し方

 

 とりあえず上の記事から引用。

 2については、マークした相手の動きを追いかけ、時にはブロッカー同士で場所をチェンジするシステムがマンツーマンブロックで、ほとんどのチームで行われているマークを受け渡すシステムがゾーンブロックです。

 ゾーンブロックでコミットブロックをする場合、相手スパイカーの二人が交差するコンビに対してマークを声で受け渡す必要があるのですが、それはなかなか難しく、結局エセリードブロックになっている事が多いです(注1)。

 そんでもって補足。

 まず定義から(ちょっと怪しいが)。ここでいう「マークを受け渡す」とは「ブロッカーが1対1でスパイカーをマークしていて、スパイカー同士が交差する攻撃をしてきた時、ブロッカーがマークする相手を交換する事」とします。

 この定義から、リードブロックおよびゾーンエセリードブロックには1対1のマークを受け渡すという概念はないので、ゾーンコミットブロックの時に「マークの受け渡し」をおこなうことがわかりますね。


 具体的には、例えば相手が前衛3枚のとき、前衛センターがBクイック、前衛レフトがセッターのすぐ横まで切り込むセミで、前衛ライトがライト平行だとしましょう。バックアタックはないことにします。

 その時、レフトスパイカーの最初のマーカーであるライトブロッカーは、レフトスパイカーの動きに注目し、「まわりそう!」とか「まわった!」とかセンターブロッカーに声をかけてマークをチェンジします。

 それでマークを変えたらライトブロッカーはBクイックにコミットで飛び、センターブロッカーはセミに飛ぶのです。


 もう少し補足。このゾーンコミットブロックでマークの受け渡しを失敗するとどうなるでしょう?

 上の例でセンターブロッカーにライトブロッカーの声が伝わらなかった場合、速攻に2枚飛ぶ事になります。裏(サイドスパイカーのこと)は0枚ですね。

 声は伝わったがライトブロッカーがコミットで飛ぶのを躊躇した場合(結構あります)、裏のスパイクに2枚飛びます。速攻は0枚ですね。

 ライトブロッカーの読みが外れた場合、速攻に0〜1枚、裏に1〜0枚飛ぶ事になります。ブロックシステムの崩壊ですね。

 こういう点で不完全なゾーンコミットブロックはエセリードブロックとそっくりです。引用の(注1)のところはそう言う意味です。


 以上から、「ゾーンリードブロック」、「マンツーマンコミットブロック」、「読みの鋭い人を揃えたチームにおけるゾーンエセリードブロック」の組み合わせ三パターン以外は基本の戦術としてはあまりお勧めしません。

 

(3)ブロックシステム part2 ・・・《仮説》

 

 本来のリードブロックは、セッターの位置がずれたり相手のクイッカーがCやBクイックに入るのが見えても、センターブロッカーはトスが上がるまでネットの中央で待つ事を目標にするようです。しかし、レベルによってはこれは不可能ですね。そこで次善の策としてデディケイトリードブロック、そしてフロントリードブロックという方法が考えられます(注1)


 デディケイトリードブロックとは、クイッカーがクイックに入った位置(AやB、Cクイックの位置)のほうにブロッカーが前もって1〜2歩近寄るリードブロックという意味で使っています。たとえばセンターブロッカーの場合、クイッカーがBに入るとわかった時点でAとBの中間まで移動してトスを待ったりするのです。

 フロントリードブロックとはクイッカーの正面までトスが上がる前に移動してブロックに飛ぶ方法のことで、上の状況で言えばBクイックの位置まで移動してトスを待つやり方です。


 ここで、相手が三枚攻撃でレフト平行、ライト平行、Bクイックのコンビで攻めてくる時を考えてみましょう。

 この時、センターブロッカーとライトブロッカーがフロントリードブロックをすればライト平行は一枚になりますが、Bクイックとレフト平行には二枚つく事が出来ます。

 また、センターブロッカーがデディケイトリードブロックをし、ライトブロッカーがフロントリードブロックをしたなら、レフト平行とBクイックには2枚(二人ともフロントリードブロックよりは完成度が多少低いけど)飛ぶ事ができ、ライト平行にも1枚半ぐらい可能になります。


 さて、上の例でライトにエースがいてそこに上がる確率が高い場合(セットの終盤など)はどうしたら良いでしょうか?その場合、このコンビを見切ったらすぐにライトに二枚付きに行き、Bクイックとレフト平行はひとりで対応するとよいでしょう。もちろんフロントリードブロックを使ってです。この作戦はかなり有効ですが、試合中臨機応変に使うには練習と意思の疎通が必要なのでアドリブはチョット難しいかもしれません。練習すれば意外と簡単です。


 長々とフロントリードブロックについて書きましたが、この方法は背の低い人でも結構できるものです。私(166センチ)も最初の頃はリードブロックをあきらめていましたが、完璧な速攻を除いては意外と有効にブロック出来るようです。完璧な速攻などそうはありませんし、相手がBカットをした時など特に効果的なのでより多くの人が練習すべきだと思います。


 ところで私は、一般的なレベルのバレーならチーム状況によってはマンツーマンコミットブロックもかなり有力な選択肢になると考えています。そしてマンツーマンブロックの場合でも、上記のコンビ「平行−B−ライト平行」でくると読み切ったときなどには、フロントリードブロックが使えると思います。また、二番目の例のようにライトにエースがいるときには、レフトスパイカーのマーカーがライトブロックに参加し、センターブロッカーにBクイックとレフト平行をまかせるといいでしょう。そのようにブロッカーの力量に応じた役割分担ができるのもマンツーマンブロックの良いところです。


 マンツーマンコミットブロックとフロントリードブロックを併用する際に必要な能力は、

  1. 相手のコンビを早い段階で見切る能力
  2. そのうえでリードに切り換える連携力(二人でやるからリードブロックの意味がある(注2) )
  3. セッターの癖を見抜きフェイクにだまされない事
  4. 素早い反射神経とリズム感

といったところでしょうか。難しいとは思いますが、小さいチームが組織力で戦おうと思うならこれぐらいマスターしたほうがよいでしょう。

 それからマンツーマンコミットブロックの弱点である、A裏やB裏からクロスに打ってくる攻撃に対しては、このフロントリードブロックに切り換える方法が最上であり、次にセンターブロッカーの判断でエセリードブロックに切り換える方法があります(かなり重要)。二度飛びではきついでしょう(もちろん速攻に飛んでしまったら二度飛びをすべきです)。

 

(注1)「フロントリードブロック」及び「デディケイトリードブロック」という言葉は正式な使い方ではなく私が流用して使っているだけです。他に正しい(=広く使われている)言葉があれば、ご存知の方はぜひ私に教えてください。なお、元ネタは下記【補足】を参照して下さい。


(注2)もちろんブロッカーのレベルがクイッカーのレベルを大きく上回っている時は一人でリードブロック(フロントやデディケイトを含む)をしても効果的です。

 

【補足1】 もともとフロントブロックというのは、クイッカーの正面まで移動するブロックに限らず、スパイカーの正面まで移動するブロックというのが正しいようです。ですので、レフト平行に対してフロントブロックというのもありです。もちろんライトブロッカーが。


【補足2】 デディケイトブロックについてですが、確か平成真技塾(?)では「バンチとスプレッドの中間の位置で待っているもの」のような説明がありました。また、「純粋なリードブロックとフロントリードブロックの中間の所で待つブロック方法」のような意味で使われる場合もあるようです。

 そこで私は、デディケイトブロックとは「クイッカーにやや近づいて、(リードブロックで)速攻に対処しよう」というブロックのことだと解釈しています。前2者の説明の違いはサイドブロッカーに着目するかセンターブロッカーに着目するかの違いだと思われますので。


【補足3】 ところで、私は速攻に関するフロントブロックとは、前もって(トスの前に)、クイッカーに正対して(ネットのちょうど反対側:後述)待つ事だと考えています。

 これによって、フロントやデディケイトを使い分け速攻のマークの軽重をつけることができます。

 ここで、平行に対して「前もって」正面で待つとはスプレッドという表現でカバーされており、絡みに関しては「前もって」スパイカーの正面で待つのは不可能なので(マンツーマンならある程度いける)、サイド攻撃に関してクイックと同じ意味でフロントブロックという言葉を使うのは無意味かと思います。

 それではサイドに関してフロントブロックとはどのような意味になるのでしょうか。

 あえて意味付けすれば「前もって(トスの後スパイカーが飛ぶ充分前に)」スパイカーの正面に位置どりし、ブロックすることだと言えるでしょう。

 

(4)ブロックの「正面」とは?

 

 ひとつ私の中であいまいになっていることがあるんですが、ブロックでいう正面とはどういうことでしょう?

 速攻の場合はトスが一般的にネットに近く、トスが上がった後に修正する時間もないのであまり問題ないのですが、サイド攻撃の時に問題になります。

 例えば、レフト平行でスパイカーがクロスに体を向けている時、スパイカーの正面で飛ぶとはストレート側なのかクロス側なのか?という疑問が生じます。

 さて、ここで「正面」という言葉が使われ得る場合として 1.「スパイカーが向いている方向」 2.「ネットに正対してスパイカーを真正面に見る位置」 3.「コート中央にスパイクを打たれないような位置」の三つがあると思いますが、表現を変えてこの三つを使い分ける必要があるはずです。

 そこで私は1.を「正面で飛ぶ(正面を押さえる)」、2.を「正対して飛ぶ」、3.を「真ん中を押さえる」と使い分ける事を提案します。

 この使い分けを実践してみると次のようになります。


 レフト平行をブロックする時は基本的に3.真ん中を押さえるべきです。そこに打たれるとレシーバーが普通いませんから。

 しかしトスがネットに近い時は話が変わります。スパイカーの身体の向きに関係なくこの場合はストレート方向に打ち込まれる危険性が大きいからです。そこでブロッカーは2.正対して飛べきなのです。

 またトスが割れた場合はどうでしょう。多くの場合割れたトスを打つスパイカーには、正面以外の方向に強いスパイクを打つ余力はありません。そして正面以外の方向に打ってもトスが割れているため下に落とされる事はなく、レシーブできれいに処理できるはずですね。つまりトスが割れた時は、ブロッカーは1.正面を押さえに行くべきなのです。

 いかがでしょうか?

(2000年1月)